【対談】建築からアメニティまで。ホテル研究家が語る「100%のタッチポイント」としての価値

【対談】建築からアメニティまで。ホテル研究家が語る「100%のタッチポイント」としての価値

こんにちは!MiYO ORGANIC 代表の山本美代です。
今回は、建築家としてのバックグラウンドを持ち、現在はホテル客室の独自の研究や書籍の執筆など、多岐にわたってご活躍されている「KOJAさん」こと小島衆太さんをお迎えしました。

ホテルという空間は、建築、インテリア、そしてアメニティまで、さまざまな要素が複雑に絡み合って作られています。その全体を俯瞰するKOJAさんならではの独自の視点から、ホテルにおけるアメニティの意義や隠された価値を紐解きつつ、これからの時代に求められるサステナブルとクリエイティブの融合について、たっぷりとお話を伺いました。

ホテル業界に関わる方はもちろん、ホテルステイをより深く楽しみたい方にとっても、新しい視点が得られる特別な対談となっています。ぜひ最後までお楽しみください!

小島 衆太(KOJA) 氏
小島 衆太(KOJA) 氏

建築からホテル業界へ。独自のキャリアと「自主リサーチ」の原点

MiYO:KOJAさん、本日はよろしくお願いします!まずは、これまでの活動や現在のお仕事について教えていただけますか?

KOJA:よろしくお願いします。僕は学生時代から建築を学んでいて、キャリアの最初は5年半ほど、いわゆるアトリエ系の建築事務所で働いていました。ちょうど東日本大震災の後で、復興プロジェクトを担当させてもらっていたんです。

MiYO:復興プロジェクトというと、かなり大規模なお仕事ですね。具体的にはどのような建築に携わっていたのですか?

KOJA:福島県で、図書館や公民館などの公共施設を作る大きなプロジェクトでした。設計のプロポーザルから現場が完成するまで、本当に多くの人たちと関わりながら進めていきました。 ただ、そこで少し壁にぶつかってしまったんです。

MiYO:壁、ですか?

KOJA:はい。復興プロジェクトって、設計者だけでなく、街づくりをしている人、運営を考える役所の人など、本当に多様な関係者がいるんですよね。 みんなそれぞれの「正義」や「熱い思い」を持って仕事をしているから、時にはぶつかり合うこともあります。 当時の僕は設計しか知らなくて、「建築」という武器だけで全ての課題を解決しようとすることに、もどかしさを感じてしまって。もっと違う視点や、建築以外の解決手段を知れる環境に移りたいと思うようになりました。

MiYO:そこから、ホテル業界へ関わるようになったのですね。

KOJA:そうです。建築も大事だけれど、事業としての成り立ちがあって、多様な人が関わる環境を探した時に、ホテルってまさにそうだなと。 でも実は、ホテル業界に行こうと決めた時点で、僕はホテルのことを何も知らなかったんですよ(笑)。 当時は仕事が忙しすぎて、旅も全然できていなくて。図書館のことなら全国を回ってリサーチしていたので詳しかったんですけどね。

MiYO:それは意外です!(笑)そこからどのようにホテルの知識を深めていったのですか?

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KOJA:転職の合間に1ヶ月間、アジアを一人旅したんです。 お金を使い果たしてやばいと思って帰ってきて、その後ご縁があってホテル業界に入ったのが2019年の夏でした。ただ、ご存知の通り、年が明けたらすぐにコロナ禍になってしまって。

MiYO:本当に大変な時期でしたよね……。

KOJA:本来あるべき仕事がほぼなくなってしまって、やばい業界に来ちゃったなと。でも、逆にホテルにものすごく安く泊まれる時代になったので、「これはチャンスだ!」と切り替えたんです。 オリンピックのために作られた国立競技場前のすごいホテルに、当時は3000円くらいで泊まれたんですよ。本来なら何万円もする価値がある場所なのに。

MiYO:そんな価格バグが起きていたんですね!

KOJA:そうなんです。だから、ひたすら片っ端からホテルに泊まりまくりました。 まだホテルの運営側の知識もなかったから、せめて自分が貢献できることを見つけようと思って。当時、ホテル客室の図面やサイズをまとめた本って世の中になかったんですよ。企業秘密なのかもしれませんが、僕みたいな新参者が学べる情報がなくて。 だったら自分で測るしかないと思って、泊まった部屋のサイズを自分で測って記録する、自主リサーチ活動をひたすらやっていました。

MiYO:その圧倒的な熱量と行動力が、のちの著書に繋がっていくのですね。素晴らしいです。

「編集者」としての視点。ホテルは多様な正義が交差する総合芸術

MiYO:KOJAさんはご自身の活動を「編集」という言葉で表現されることがありますよね。それはどのような意図があるのでしょうか?

KOJA:最近、「何をやっているんですか?」と聞かれた時に、「編集みたいなことをしています」と答えるようになったんです。アーキテクチャ(architecture)って単に「建築」だけではなくて「構造」とか「組み立てる」という意味合いもあります。例えば、IT業界でもシステムアーキテクトって呼んだりもしますよね。

MiYO:確かに、物事を構築していくようなイメージがあります。

KOJA:そうなんです。扱うものがハード(建築)からソフトに変わっても、物事の構造を読み解いて組み立てるという根幹は同じだと気がついたんですよね。世の中の編集者さんたちも、情報を整理して面白い形に組み立てて届けるお仕事をされています。僕も、まだ表に出てきていない、言語化されていない情報を見つけて引っ張り出し、「こういう面白さがありますよ」と提示するのが好きなんです。

MiYO:なるほど。建築家としての構造的な視点が、ホテルという空間を読み解くベースになっているのですね。KOJAさんから見て、ホテルの構造的な面白さってどこにあると感じますか?

KOJA:一番面白いのは、同じ「ホテル」というひとつの空間を作るのに、関わる人たちの「複数の正義」が混在しているところです。

MiYO:複数の正義、ですか。

KOJA:はい。例えば、設計者には設計者の正しさや「想い」があります。一方で、運営者には運営者の「想い」がある。ホテルってとても複雑なプログラムなので、多くの人が関わって、それぞれの正義がぶつかり合わざるを得ないんです。絶対的な正解がない中で、それをどうすり合わせていくか。

MiYO:私たちもアメニティを作っていて、デザイン性とコスト、オペレーションのしやすさがぶつかることは日常茶飯事です。

KOJA:そうですよね。でも、ゲストから見たら、裏側で誰がどういう正義を持ってぶつかり合ったかなんて関係なく、最終的な空間やプロダクトだけを受け取るわけです。見ているものは一つなのに、作っている側には無数の正義がある。僕はそういう背景を読み解くのが好きなんでしょうね。

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ゲストが必ず手にする「100%のタッチポイント」だからこそ、デザインと機能性を両立させたい。

100%のタッチポイント。アメニティに秘められたクリエイティブの可能性

MiYO:KOJAさんは建築からインテリア、さらにはアメニティという小さなものまでフラットに見られていますが、ホテルにおけるアメニティの役割をどう捉えていますか?

KOJA:ホテルって、結局のところ全ての要素の「総合演出」だと思うんです。1日1組限定の超ニッチな宿ならともかく、ある一定程度の規模のホテルなら、マニアックな建築好きだけにしか刺さらないのでは困ってしまいますよね。そこで重要になるのが、「ゲストとのタッチポイントの多さ」だと考えています。

MiYO:タッチポイントですか。

KOJA:ハードからソフトまで、どの場面でどれだけゲストとの接点を作れるか。建築とアメニティって、ハードの規模感で言うと両極端にあります。建築は誰もが使う空間ですが、裏側にある構造の仕組みまで踏み込んで咀嚼できる一般ゲストは少ないですよね。

MiYO:確かに、専門的な知識がないと「すごい!」と直感的に理解するのは難しいかもしれません。

KOJA:一方で、家具やインテリアはもう少し分かりやすい。 そして、アメニティくらい身近なものになると、ゲストがほぼ100%使い、理解できるものだと思います。歯ブラシなんて、絶対に使いますよね。

MiYO:必ず手にとっていただくものですからね。

KOJA:それだけゲストとの接点になる確率が高い、とても重要なタッチポイントなのに、そこに対するデザインやクリエイティブが見えることが少ない、という歯痒さをずっと感じていました。家具にはこだわっているのに、そこに置かれているアメニティも何故こだわらないんだろう?って。

MiYO:私たちもまさに同じことを感じています。

KOJA:だからこそ、アメニティにはまだまだチャンスがあると思っています。プロダクト規模の大小ではなく、様々なホテルの構成要素をフラットに考えた時に、アメニティでどうやってゲストの心を動かすか、という視点がもっとあっても良いと思います。

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サステナブル×クリエイティブ。MiYO ORGANICの「持ち帰れるギフト」

MiYO:そんなアメニティの可能性を語ってくださるKOJAさんから見て、私たちMiYO ORGANICの製品はいかがでしょうか? 

KOJA:僕はMiYOさんの「ウォッシャブルポーチ」を愛用しているんですが、あれ、すごくいいんですよ。ただ「サステナブルです」っていうだけじゃなくて、単純にプロダクトとしてかっこいいし、機能的ですよね。

MiYO:ありがとうございます!あのグリーンのポーチですね。

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MiYO ウォッシャブルポーチ・グリーン

KOJA:そうそう。僕はあれを家の洗面台に立てて毎日使っていて、旅に出る時もそのまま丸めてカバンに放り込んで持っていくんです。だからもう、紐の部分がボロボロになってしまいました(笑)。

MiYO:ええっ、そんなに日常使いしていただけているなんて本当に嬉しいです!
(※KOJAさんが愛用してくださっている「ウォッシャブルポーチ・グリーン」は[こちらからご購入いただけます]

KOJA:日本の市場って、サステナビリティに対する意識がまだ少し弱い部分があるじゃないですか。環境に良いからという理由だけでは、なかなか手に取ってもらえない。 だからこそ、「サステナブル×クリエイティブ」の視点が必要だと思っています。

MiYO:本当におっしゃる通りです。私も以前、環境に優しい素材の歯ブラシを作ろうと思ってオランダに視察へ行ったことがあるんです。そこで見たものは、サステナブルであることを全面に押し出すのではなく、とにかく「デザインがかっこいい」ものばかりでした。

KOJA:まさにそれです!

MiYO:かっこいいなと思って手に取って、よくよく聞いてみたら「実は廃材からできているんですよ」と。その「実は」というアプローチがすごくさりげなくて素敵で、私たちもそういう見せ方を目指しています。

KOJA:MiYOさんの製品には、そういうクリエイティブの魅力がありますよね。ホテルで出会って、「これかっこいいから自分でも使いたいな」と思わせる力がある。 アメニティって消耗品ですけど、パッケージやデザインを工夫することで、ホテルでの滞在を思い出す「特別なギフト」になれるんだなと気付かされました。

MiYO:私たちは、アメニティをただ消費して捨てるものではなく、「旅の思い出として持ち帰れるギフト」にしたいという強い想いがあります。 KOJAさんのように、次の旅に持って行ってくださったり、日常で使っていただいたりすることで、そこに旅の記憶が少しずつ重なっていく。それが私たちの理想のアメニティのあり方です。

KOJA:箱にホテルのロゴが入っていてもいいし、MiYOさんのブランドが見えてもいい。いずれにせよ、それがゲストにとってのタッチポイントになり、日常の暮らしに持ち帰れるのは、本当に素敵なアプローチだと思います。

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KOJAさんがバリのホテルで手渡されたという、バッグと水筒。
傘や水筒が入る高い機能性と、環境への配慮をさりげなく落とし込んだクリエイティブなデザインが見事に融合している。

事前のリサーチは不要?KOJA流・ホテルの直感的な楽しみ方

MiYO:KOJAさんは純粋なクリエイターでありながら、様々な角度から物事を楽しむ視点をお持ちだと感じます。最後に、読者の方に向けて「ホテルをもっと深く楽しむためのアドバイス」をいただけますでしょうか?

KOJA:僕からのアドバイスは、「あえて事前にネットで調べすぎないこと」ですね。

MiYO:えっ、リサーチの鬼のようなKOJAさんが「調べない」んですか?(笑)

KOJA:そうなんです(笑)。行くホテルを決めるまでは調べますけど、決めた後は、コンセプトや背景情報をあまり入れないようにしています。ネットにある情報って、誰かがすでに言語化した情報、つまり「2次情報」なんですよね。 AIが簡単にまとめてくれる時代になり、わかりやすい要約情報は多くなっています。そして、事前にそれを読み込んでしまうと、どうしてもその情報に引っ張られてしまうと思います。

MiYO:ああ、映画のネタバレを見てから本編を見るような感覚に近いですね。

KOJA:まさにそれです。現地に行くと、まだ誰も言語化していない、自分だけが直感的に感じる、1次情報以下の「0.5次情報」みたいなものが落ちているんですよ。

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MiYO:「0.5次情報」、面白い表現ですね!

KOJA:昔、とあるプロジェクトをやっていた時に、新しいものを作りたい派と反対派で意見が割れたことがありました。いくら資料を集めて議論しても平行線だったんですが、みんなで一緒に様々な類似施設の視察に行ったら、空気が一気に変わったんです。

MiYO:視察に行ったことで、何かが通じ合ったんですね。

KOJA:現地で働く人の熱い想いを感じたり、空間の空気感に触れたりすることで、完全には言語化できない「これ、なんかいいな」という感覚を皆で共有できたんです。誰かが行って「良かったです」とチームに報告しても、それはもう2次情報になってしまうし、そもそも言語化すら難しい感覚値みたいなものがある。だから特にチームプロジェクトの場合は皆で一緒に足を運んで、自分たちの目で見て感じ、議論することが何より大切だと考えています。

MiYO:ホテルステイも同じですね。事前に正解を知ってから行くのではなく、現地で自分が何を感じるかを大切にする。

KOJA:そうです。ホテルの楽しみ方の話に戻すと、「この椅子、かっこいいな」とか「このアメニティ、誰が作ったんだろう?」と現地で気になったものを入り口にして、そこから後で調べ、興味を広げていけば良い。そういう余白を残しておく方が、ホテルの楽しみ方はもっと豊かになると思います。

MiYO:直感的な出会いがあるからこそ、私たちが作っているアメニティも、お客様にとってより印象深いギフトになれるのかもしれませんね。今日はホテルや空間に対する新しい視点をたくさんいただき、本当にありがとうございました!

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KOJAさんの著書の紹介

【書籍のご紹介】 対談内でKOJAさんが語ってくださった、コロナ禍での地道な「自主リサーチ」から生まれた貴重な一冊。ホテル体験を滞在シーン別に徹底解剖し、設計と運営を横断した視点で空間の構造を紐解いた、熱量あふれる書籍です。ホテル好きの方や、ホテリエ、空間デザイン・建築に興味がある方は必見です!ぜひお手に取って、ホテルの新しい見方を発見してみてください。

▶図解 ホテル空間の演出: シーン別 設計と運営